#86 7月16日(木)ハイテク株のローテーションと地政学リスクが主導する市場展開

主要ニュースと経済指標

6月の米国小売売上高は前月比0.2パーセント増となり、市場予想と一致しました。ガソリン価格の下落によりガソリンスタンドの売上が5.3パーセント減少したものの、アマゾンのプライムデーなどのオンライン販売が1.9パーセント増、自動車ディーラーが1.9パーセント増となり全体を牽引しました。自動車やガソリンなどを除いたコア売上高も0.5パーセント増と堅調でした。一方、労働市場も安定を示しており、7月11日までの1週間の新規失業保険申請件数は8000件減の20万8000件と、5月以来の低水準を記録しました。継続受給者数も181万人に減少し、米国消費者の底堅さを裏付けています。

不動産市場に目を向けると、全米住宅建設業者協会とウェルズ・ファーゴが発表した7月の住宅建設業者指数は2ポイント低下の34となり、今年最低水準を記録しました。住宅ローン金利が6.55パーセントと昨年8月以来の高水準に跳ね上がったことに加え、資材価格の高騰や熟練労働者の不足が建設業者のセンチメントを圧迫しています。6月の中古住宅販売契約指数も5.4パーセントの落ち込みを示し、住宅市場の冷え込みが顕著になっています。

地政学リスクは一段と高まっています。米国とイランの停戦が崩壊し、米軍はイランの軍事施設に対して5日連続で攻撃を実施しました。これに伴いホルムズ海峡の商業船舶の航行は激減し、エネルギー供給への懸念から原油価格が上昇しています。ブレント原油は1バレル85ドル近辺まで値上がりし、米国内のディーゼル燃料の小売価格も1ガロン5ドルを突破しました。このエネルギー価格の急騰は、沈静化しつつあったインフレを再び加速させるリスクを孕んでいます。

米国株式市場

本日の米国株式市場は主要3指数が揃って下落しました。ダウ工業株30種平均は前日比0.20パーセント下落の52552.97ドルで取引を終えました。S&P500種株価指数は0.51パーセント安の7533.77、ナスダック総合指数は1.47パーセント安の25881.95と、特にハイテク株主体のナスダックの下げが目立ちました。

市場全体としては、これまで相場を牽引してきた人工知能関連のテクノロジー株から、他のセクターへ資金を移すローテーションの動きが顕著に表れました。台湾の半導体大手TSMCの好決算が発表されたものの、データセンター建設などの莫大な設備投資負担に対する警戒感から利益確定売りが優勢となりました。一方で、消費者の底堅さを示す小売売上高の結果を受け、ナイキ(NKE)やマクドナルド(MCD)など一部の消費関連株には買いが入り、ダウ平均の下値の支えとなりました。

個別銘柄では、TSMCが5四半期連続の最高益を記録して通期の売上高見通しを引き上げたものの米国預託証券の価格は下落し、マイクロンテクノロジー(MU)やエヌビディア(NVDA)といった米国の半導体関連銘柄の重荷となりました。宇宙開発のスペースX(SPCX)は、新規株式公開価格である135ドルを割り込んで下落し、上場後の熱狂が冷めつつあります。ユナイテッドヘルス・グループ(UNH)は業績が市場予想を上回り、通期見通しを引き上げたことで株価が上昇しました。また、ストライプとアドベントがペイパル・ホールディングス(PYPL)を530億ドル規模で買収すると提案したとの報道も市場の注目を集めました。ネットフリックス(NFLX)は四半期決算で13パーセントの増収を報告したものの、今後の売上成長の鈍化を予測したため投資家の懸念を呼びました。

日本株式市場

本日の日本株式市場は、日経平均株価とTOPIXがそろって3日ぶりの大幅な反落となりました。日経平均株価の終値は前日比1915円97銭安い6万6835円54銭となり、下落率は2.8パーセントです。また、TOPIXの終値は前日比1.4パーセント下落の4028.79で取引を終えました。プライム市場全体では値下がり銘柄数が約7割を占め、特にハイテク株や半導体関連銘柄を中心とした下落が指数を大きく押し下げる展開となりました。

株式市場全体が大きく下落した背景には、海外市場における半導体関連株の急落があります。前日の米国市場では物価指標の低下を受けて主要指数が上昇したものの、中国の半導体メモリー大手の新規株式公開を控えた競争激化への懸念から半導体銘柄が売られました。これに加えて、韓国市場でもハイテク株を対象としたレバレッジ型上場投資信託に対する取引規制強化の方針などが伝わり、韓国の総合株価指数が一時7パーセントを超える急落を見せました。台湾の半導体受託生産大手が市場予想を上回る好決算を発表したものの、市場の反応は限定的にとどまり、投資家の警戒感を払拭するには至りませんでした。

個別銘柄の動向としては、海外市場の半導体株安の流れを受けて、アドバンテスト(6857)や東京エレクトロン(8035)、ソフトバンクグループ(9984)といった主力ハイテク株が軒並み大きく売られました。また、キオクシアホールディングス(285A)も中国の競合他社による生産能力増強への懸念などから売りが膨らみ、大幅な下落を記録しています。一方で、これまで相場を牽引してきたハイテク株から資金を移す動きも見られ、内需関連や出遅れていた大型バリュー株の一角には買いが向かいました。

内需関連銘柄では、第三四半期決算で増益を確保し、価格改定の検討や増配を発表したサイゼリヤ(7581)がストップ高水準まで買われました。また、サイバー攻撃によるシステム障害で前日に急落していたニチレイ(2871)は、物流業務の順次再開を発表したことで安心感が広がり急反発しています。そのほか、政策保有株式の売却方針を発表した東宝(9602)や、好決算を発表した良品計画(7453)、海外ハイテク大手との協業が伝わったトヨタ自動車(7203)などが堅調な値動きを示しました。

債券市場

米国の債券市場では、インフレの鈍化を示す経済指標と、原油価格の上昇によるインフレ再燃リスクが交錯し、利回りは方向感に欠ける展開となりました。指標となる米国10年国債利回りは4.56パーセント近辺で推移しています。一方、米国の財政赤字拡大や人工知能投資に伴う企業の資金需要増大が意識され、米国30年国債利回りは5.12パーセント近辺と高水準での取引が続いています。

金融政策の先行きについては、最近の消費者物価や生産者物価の落ち着きを受け、年内の利上げ観測が後退しています。金利オプション市場では、追加利上げに対するヘッジ目的で買われていたプットオプションを手放す動きが活発化しました。しかし、ダラス連銀のローリー・ローガン総裁がインフレは2パーセントの目標に向けて持続的に低下していないと指摘し、控えめな利上げの必要性に言及したことで、金融引き締めの長期化に対する警戒感も完全に払拭されてはいません。

社債市場や欧州の動向にも変化が見られます。米国社債市場ではハイパースケーラーと呼ばれる巨大IT企業の発行シェアが拡大しており、投資家にとって特定セクターへの集中リスクが課題となっています。英国債市場では、10年国債利回りが5パーセントをわずかに下回る水準にあります。国際通貨基金は次期英国首相に対し、2022年の市場混乱による傷跡が残っていると警告し、財政政策の透明性と信頼性を維持することの重要性を強調しました。

為替市場

為替市場において、米ドルは主要通貨のバスケットに対して小幅に上昇しました。堅調な小売売上高や失業保険申請件数の減少が米国の底堅い経済状況を示したことで、米ドルを下支えしました。インフレ鈍化による連邦準備制度理事会の政策引き締め緩和の期待がある一方で、中東情勢の緊迫化に伴う原油価格の上昇が米国の金利低下圧力を相殺し、ドル買いの動きに繋がりました。

地政学的な緊張は新興国通貨や安全資産の動きに大きな影響を与えています。米国とイランの紛争激化やホルムズ海峡の封鎖によりリスク回避の姿勢が強まりました。イランの通貨リアルは、米国の海上封鎖再開によってブラックマーケットでドルに対して大きく減価しています。また、原油価格の高騰は資源国通貨にプラスの材料となる一方、世界的なインフレ再燃による経済減速懸念が上値を重くしています。

欧州通貨では、英国の政局安定化に対する期待からイギリスポンドが対ドルで1年ぶりの高値を記録しました。アンディ・バーナム次期政権の財務相として、経済政策に関して特定のイデオロギーに縛られていないシャバナ・マフムード内務相が起用されるとの観測が広がり、市場に安心感を与えました。これにより、これまでポンドの重荷となっていた英国の政治的リスクプレミアムが低下し、ポンド買いが優勢となりました。