アメリカのイランに対する軍事衝突とその影響

KZ 著
令和8(2026)年3月1日

 本レポートは、2026/02/28に始まった米国・イスラエルとイランの軍事衝突およびそれに伴うホルムズ海峡リスクについて、市場がどの経路で反応し得るかを整理し、各セクター・指数にどのような影響を与えるのかを推測することを目的としている。

 ただし、2026/03/01時点では、米国・欧州・日本の株式市場が週末で閉場しているため、主要指数の反応を観測することはできない。したがって本レポートでは、ニュースから把握できる事実関係を整理し、過去同様のイベントがあった時に発生したマーケットへのインパクトから推測できる、今回の攻撃の影響をまとめた。

 追記:2026/3/2に入り、各市場が開場し、現在NASDAQは1.60%下落している。

  • 現状整理:アメリカ・イスラエルによるイランへの攻撃によって、中東の先行市場(3/1)では、湾岸株が下落した。特に海運と航空が下落する中で、原油セクターのみ急騰しており、「原油高・物流混乱・リスクオフ」の組み合わせを示唆している。
     
  • 過去の米国によるイラン関連の軍事行動がもたらす、NQへの影響を考えると、下落幅はおおむね限定的で、数営業日以内にサイクルクローズするケースが多い。
    • ただし、戦争が長期化の局面(例:ロシア・ウクライナ戦争)を迎えると、下落幅・回復日数が大きくなり得ることを留意したい。 
  • 米国株のセクターについての見立ては、石油採掘・メジャーや防衛関連は上昇すると考えている一方で、製油・航空・半導体・テック系は短期的に下落すると考えている。
    • また、今後の情勢次第でその動きをすぐにサイクルクローズする可能性もあるため、イラン関連のニュースと、原油・金といったディフェンシブ銘柄、VIXなどのリスク指標を確認したい。
  • 今回の追加的なリスクは、以下の3点である。
    • ①報復が米国・イスラエルにとどまらず湾岸へ波及し航空・物流の混乱が出ている点
    • ②ホルムズ海峡が公式閉鎖でなくとも実務上の閉鎖に近づきつつある点
    • ③米国側が作戦継続姿勢を示し死者が出ている点
  • NQのサイクルクローズが達成されるために必要な項目、つまり我々が監視すべき項目は以下の4点である。
    • ①報復が他国に多大な影響を与えるまでに拡大するのか
    • ②空域/港湾制限が長期化するのか
    • ③ホルムズ海峡がの実質的に閉鎖されるのか、どれくらいの期間閉鎖されるのか
    • ④アメリカの対イラン作戦がどれだけ長期化するのか

 まずは今回のイラン国内の騒動と、その後のアメリカ・イスラエルとの衝突について、タイムラインを確認する。

日時当事者発生事象
2025/12/28イラン国民首都の商人層を起点に、経済制裁などの影響による経済困難を背景に抗議が拡大した。(Reuters)
2026/1/9イラン当局全国的にインターネットを遮断した。(Bloomberg)
1/10ハメネイ師講義は対外勢力の扇動を受けているとして、死刑も辞さないと強硬な演説を行った。(Bloomberg)
1/14報道通信遮断下で大規模殺人と拘束が行われた可能性が高いと複数のメディアが報じた。約2000人以上の死者が出た模様。(Human Rights Watch・Amnesty International・Reuters)
1/25イラン市場イランリアルが過去最安値圏(1ドル=150万リアル)インフレ率が60%に到達した。(Reuters)
2/6米国・イラン
オマーン主催
マスカット(オマーン)で核協議が開始した一方で、同日、イランへの追加制裁と“対イラン取引国”への関税圧力をかけた。(Reuters)
2/9米海事局違法臨検/拿捕の長期リスク、AIS・VHF(海上無線)注意などの注意文を発効した。(米海事局)
2/24イラン裁判所1月の抗議に関連して、初の死刑宣告者が発生した。(Reuters)→ 国連人権高等弁務官が2/27に死刑執行停止を要求。(United Nations)
2/25米国当局イランの石油販売・ミサイル/兵器関連ネットワークに対して追加制裁を行った。(Reuters)
2/27 引け頃米国・イランジュネーブ協議の進展は限定的。米国特使は時間を理由に切り上げて帰国した。(Reuters)
2/28 15:15頃イスラエルイスラエルが「先制攻撃」を表明。主要報道より、米国関与も同時進行で行われている。(Bloomberg)
2/28 16:00UKMTO「ホルムズ海峡が閉鎖された」とするVHF16ch(緊急用の船舶無線)報告を複数受領したと報じた。ただ、法的拘束力はない。(Reuters)
→イランのアラグチ外相は、ホルムズ海峡を閉鎖していないと発言した。(Bloomberg)
2/28夜~翌朝イラン攻撃の報復として、ドバイ航空・港湾などを攻撃。空域の閉鎖と欠航が拡大した。(BBC)
3/1イランハメネイ最高指導者が爆撃を受けて死亡した。(Bloomberg)
3/1中東市場湾岸株が急落し、クウェート証券取引所は取引を停止した。(Reuters)
3/1日本海運日本海運大手がホルムズ海峡の運航を見合わせる。(Bloomberg・Reuters)
ex) 商船三井・日本郵船・川崎汽船など
3/2米中央軍今回の衝突で米国側初の死者3名。(Bloomberg)

 中東の株式市場は日曜日も開場している国が多い上に、今回の当事国の周辺に位置するため、先行市場として有用であると考えた。国別でみると、サウジ、オマーン、バーレーン、エジプトなどが下落し、クウェートは「例外的状況」で取引停止に踏み切った。個別セクターに目を向けると、金融・航空といった景気敏感セクターは下落した一方で、エネルギーは相対的に底堅かった。具体的な結果は以下の表にまとめた。表を参照していただければわかるが、軒並み下落している中で原油を取り扱っているサウジアラムコが上昇している。

 原油は、ホルムズ海峡が事実上閉鎖されたことで、原油の供給量へのリスクが高まり、原油価格が上昇したことで収益が向上する期待から買われたと考えられる。実際ロイターによると、ブレント石油の店頭価格は、日曜日に10%以上も上昇したと報じられている。

 航空に目を移すと、ドバイやドーハといった中東の国際空港は閉鎖もしくは大幅に制限されており、欠航や迂回、遅延が発生している。また、原油価格の上昇によって燃料費が急増することが懸念点としてあげられる。以上の2点から今日の市場で特に売られたと考えられる。

 海運も同様の理由が考えられる。イランによってホルムズ海峡が事実上閉鎖されたことで、輸送量の減少や運航リスクが懸念されて売られたと考えられる。(イランのアラグチ外相はホルムズ海峡を閉鎖していないと述べているものの、実際イランのドローンによって攻撃された船舶があるなど、不安材料が多いため売られたと考えられる。)

銘柄セクター3/1騰落率
Saudi Aramco原油+3.4%
flynas航空-6.9%
Bahri / National shipping Company of Saudi Arabia海運-4.2%
Al Rajhi Bank銀行-2.6%
Sunday Dow(ダウ)米国指数-1.1%
Sunday Nasdaq(ナスダック)米国指数-1.0%

過去事例の確認

 このセクションでは、過去イラン・米国関連で今回の攻撃と類似する事例が発生したときにマーケットインパクトとサイクルクローズにかかった期間をまとめた。以下の表は、類似事例が発生した後のNASDAQ100先物(NQ)の下落幅(下落日数)とサイクルクローズまでにかかった営業日数をまとめたものである。

イベント発生日イベント詳細下落幅(下落日数)サイクルクローズまでにかかった営業日数
2020/1/3米国が無人機攻撃により、イラン革命防衛隊の司令官殺害。-1.46%(1日)4営業日
2024/2/3米軍がイラク・シリアで親イラン武装勢力の拠点を空爆。-0.88%(1日)3営業日
2025/6/21米国によるイラン核施設への空爆-1.20%(1日)2営業日
2026/1/2アメリカによるベネズエラの攻撃と大統領の逮捕。-0.83%(1日)2営業日
2026/2/28イスラエルとともにイランを空爆し、ハメネイ最高指導者を殺害。-1.00%
Sunday NASDAQ
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 このように過去事例から参照すると、イランに対する軍事攻撃は一時的に下落させる傾向はみられるものの、その影響は市場全体のトレンドを大きく転換させるほどの深刻なショックには至らないケースが多い。また、これらの下落は比較的早期にサイクルクローズを達成していることがわかる。

 逆にこれが全面戦争になった場合はどうだろうか?NQのデータが存在する2000年以降で、○○戦争(例:ロシアウクライナ戦争)をまとめ、その下落率とサイクルクローズまでにかかった日数を以下の表にまとめた。

イベント発生日イベント詳細下落幅(下落日数)サイクルクローズまでにかかった営業日数
2001/10/7アフガニスタン戦争(アメリカ v.s タリバン政権)-0.99%(1日)2営業日
2003/3/19イラク戦争(アメリカ v.s.イラク)-0.71%(1日)3営業日
2011/3/19リビア内戦(アメリカ v.s. カダフィ政権)上昇
2014/8/8イラク空爆(アメリカ v.s. ISIS)上昇
2017/4/7シリアへのミサイル攻撃(アメリカ v.s. シリア)-0.93%(4日)8営業日
2018/4/14シリア化学兵器関連施設への攻撃(アメリカ v.s. シリア)上昇
2022/2/25ロシアウクライナ戦争(ロシア v.s. ウクライナ)-8.25%(クラックを形成後、4日連続下落)15営業日
2024/1/12イエメンへの攻撃(アメリカ v.s. フーシ派)上昇

 この表のように、過去の戦争を見ても、早期決着したものに関しては、市場全体のトレンドを大きく転換させるほどの深刻なショックには至らない、むしろ上昇しているイベントも多々見られる。ただし、ロシアウクライナ戦争のみ、多大なる影響を及ぼしている。これは戦闘が長期化したことや、ロシアが核兵器の使用を示唆するなど、多数の原因が絡んでいるものではあるが、一概に「戦争の影響は軽微で即座にサイクルクローズが行われる」とは言えないことを裏付けているだろう。

NQの変動予測について

 まず、Nasdaq100先物(NQ)について、今回の米国・イスラエルによる対イラン軍事行動がもたらす値動きを予測する。過去の中東での有事、とりわけ「米国がイラン関連で軍事行動を実行した局面」では、株式市場は一時的にリスクオフへ傾くものの、指数の下落は限定的にとどまり、数営業日でサイクルクローズするケースが少なくない。したがって今回も、短期的にはNQが1%前後下落する局面は十分に想定し得るが、基本シナリオとしては、影響は軽微に収束し、数営業日でサイクルクローズへ向かう可能性が高いと考える。

 もっとも、今回の局面で重要なのは、「市場が過去と同様な織り込み方をするのか」を左右する追加リスクが存在する点である。第一に、過去事例と比較したときに、今回のようにイランが攻撃国に対して報復を行った例は複数存在するものの、イランの報復が米国・イスラエル軍にとどまらず湾岸地域へも波及している点が異なっている。Reutersは、米・イスラエルの攻撃後にイランが報復に動き、湾岸地域に混乱が広がったこと、さらに航空面ではフライト停止・空域回避などの“旅行・物流の混乱”が起きていることを報じている。

 第二に、ホルムズ海峡を巡るリスクによって、保険・安全保障・船主判断で通航量が急減し、物流が実務上止まりつつある。実際、タンカーの錨泊が急増し航路が停滞していること、また複数の大手船社が通航停止・待機に動いたこと、イランの無人機がタンカーを攻撃し負傷者が出たことがReutersより報じられており、国家による公式の閉鎖はなされていないものの、ある種の「準閉鎖」状態になっているといっても過言ではない。

 第三に、イラン ー アメリカ・イスラエルの戦闘が、政治的に短期で収束しにくい構図になっている可能性がある点である。Reutersによれば、トランプ大統領は「全目標を達成するまで作戦を継続する」旨を表明しており、実際米軍側では、戦闘の継続によって米兵3名の死亡が報じられている。 これらは今回の騒動を単発の衝突ではなく、ロシアウクライナ問題のような継続的な戦闘にしてしまう可能性があり、その場合はサイクルクローズが遅れるだろう。(実際、ロシアウクライナ問題は戦闘の激化を受けて、8.25%下落しサイクルクローズまで15営業日かかった。)

 NQの下落が浅くて早期にサイクルクローズするのか、もしくは深くて長引くのかは、結局のところ市場が「この衝突はこれ以上被害を拡大しない」と納得するまでの時間で決まる。この”納得”するためには、「①イランの報復が他国をさらに巻き込まないか」・「②空域制限や港湾閉鎖などが長期化しないか」「③ホルムズ海峡が実質的に閉鎖されないか」「④米国の作戦が長期化しないか」の4点を確認すればよい。これらを確認するため、引き続きニュースのチェックを行い、VIX・原油といった地政学リスクに敏感に変動するものの値動きがすぐ沈静化するかどうかを日々チェックする必要がある。

個別銘柄の予測について

 次に、米国市場の個別銘柄・セクターについて、今回の米国・イスラエルによる対イラン軍事行動がもたらす値動きを中東の先行市場をもとに予測する。

石油セクター

 石油セクターについて、今回の地政学リスクによる原油高は、石油の採掘・開発を行っている企業や石油メジャーの利益期待に直結しやすく、上昇しやすいと考えている。ただし、OPEC+の増産や物流の正常化が早期で達成され、原油価格が以前の水準に戻った場合、このセクターは上昇をサイクルクローズする可能性があることに留意しておきたい。具体的な銘柄は、XOM(Exxon Mobil)・CVX(Chevron)があげられるだろう。

 一方で、製油を行っている企業は、石油製品の価格と原油の仕入れ値のスプレッドが利益の源泉であるため、原油のみ急騰する局面ではコスト増が見込まれ、下落すると考えている。具体的な銘柄は、VLO(Valero)・MPC(Marathon Petroleum)、PSX(Phillips 66)があげられるだろう。

航空セクター

 航空セクターに目を移すと、現状として中東の空域・空港制限の影響を受けて欠航・鵜飼が発生しているとの報道がBloombergから出ており、下落要因となりそうである。また、原油価格の急騰により燃料費が高騰し、輸送コストが増加する可能性もあり、この2点が航空セクターを下に押し下げる要因になりそうである。国際線比率が高い、あるいは中東・欧州経由の運航影響が大きい(例えばトランジットをドバイ国際空港で行っている航路が多数ある、など)ほど売りが出やすいと考えている。ただし、空域制限が即座に解消された場合、石油セクターとは逆の発想で、下落をサイクルクローズしに行く可能性があることに注意しておきたい。具体的な銘柄は、UAL(United Air Lines)・DAL(Dellta Air Lines)・AAL(American Air Lines)などが国際線の比率が高いため影響を受けそうである。

海運セクター

 海運は一枚岩ではないと考えている。ホルムズ周辺の混乱が続けば運賃上昇が期待される一方、戦争保険・航路変更・欠航といった地政学リスクも存在するため、タンカーは売られるのではないかと考えている。実際ホルムズ海峡を通過する船舶の内約6割がタンカーという調査があり、タンカーに対する逆風は強いように感じる。一方で純粋な海運は、中東以外への航路も多数抱えていることが想像されるため、こちらはタンカーとは別の値動きを見せる可能性は大いに考えられるだろう。具体的な銘柄は、タンカーがFRO(Frontline)、海運がZIM(Zim Integrated Shipping Services)などがあげられるだろう。

防衛セクター

 イラン米国間の衝突が長期化したり、他国へ影響が拡大すると、このセクターに属する企業は需要が浄化する期待から上昇するかもしれないと考えられる。ただし石油セクターと同様に、停戦期待が高まることで、上昇をサイクルクローズする可能性があることに留意しておきたい。具体的な銘柄は、LMT(Lockheed Martin)・NOC(Northrop Grumman)・PLTR(Plantier)などがあげられるだろう。

半導体・テックセクター

 半導体やテック系企業は、金利に敏感である。今回の衝突によって原油高が継続的に引き起こされ、期待インフレ率と金利が上昇することで、売られやすいのではないかと考えている。具体的な銘柄は、神7(NVDA,AAPL,GOOG,MSFT,META,AMZN,TSLA)やAVGO(Broadcom)などがあげられるだろう。

まとめ

 以上より、今回の米国・イスラエルによる対イラン軍事行動は、過去事例から考察するとNQへの影響は軽微で早期にサイクルクローズされると考えられるものの、報復の波及による航空・物流の混乱、ホルムズ海峡における事実上の閉鎖に対するリスク、ならびにアメリカの対イラン作戦長期化を示唆する材料が重なっており、ロシアウクライナ戦争の時のように、10%弱の下落し、回復までの所要営業日数が伸びる可能性を大いに秘めていることに注意を払いたい。

 したがって当面は、①イラン側の報復拡大、②空域・港湾制限の長期化度合い、③ホルムズの通航状況、④米国の作戦継続シグナルを継続してウォッチし、あわせて原油・VIX等のリスク指標が沈静化に向かうかを確認する必要があると考えている。