対EU関税発表による下落の「サイクルクローズ」所要営業日の推定

 本レポートは、トランプによる対EU関税発表に起因する各国市場の下落について、過去の類似イベントを参照しながら、今回の下落が「サイクルクローズ」するまでに要する営業日数を推定することを目的とする。

 ただし、本レポートにおける用語の定義は以下のとおりである。

  • マーケットインパクト:発表日時のOpen Priceから下落の最大値までの下落率。
  • サイクルクローズ:発表日時のOpen Priceを、デイリーの終値ベースで上回った時点。
  • 営業日のカウント:下落開始からサイクルクローズ完了までの営業日数(下落している機関もカウントする)。


 また、現時点(2026/1/21)での各国指数の最大下落率は以下のとおりである。

過去に同様の「関税ショック」として比較可能な例を調べた結果、以下の3事例が抽出された。

  • 4/3:トランプ報復関税発表
  • 7/31:関税の税率見直しに関する大統領令
  • 10/10:対中100%追加関税発表

 4/3のケースは、マーケットインパクトが-10%〜-16%台と他事例(-1%〜-5%台)に比べて段違いに大きい。したがって、同一の線形関係で説明すると推定が歪む可能性がある。このため、このセクションでは4/3を外れ値として扱い、7/31と10/10のデータに限定して推定する。

 7/31・10/10の各指数について、マーケットインパクトとサイクルクローズまでの営業日数を整理した結果を散布図化し、最小二乗法により近似直線を推定した結果が以下のグラフである。

 以上のデータをもとに、今回のマーケットインパクトに対するサイクルクローズまでの営業日数を推定していく。

 まず、上記回帰式に、今回のマーケットインパクトを代入し、サイクルクローズまでの営業日数を点予測した。点予測とは、先ほど算出した近似直線(y=-233.65x+0.2662)に各指数のマーケットインパクト(例えばNASDAQならx= -2.30%)を代入して計算したものである。点予測結果は以下のとおりである。

 ただ、回帰推定は説明力が完全ではなく(R²=0.5772)、またサンプルも限定的であるため、点予測のみでなく一定の幅を持った見立てが必要となる。そこで本レポートでは、75%の信頼水準を前提とした予測区間を設定する。(自由度 n−2の t値(両側75%) を用いて計算を行った)
 その結果は以下のとおりである。

上記の点予測および予測区間を散布図上にプロットし、回帰直線と合わせて可視化したものが以下のグラフである。

 前セクションでは7/31および10/10に限定して推定した。一方で、関税ショックとしての説明力を高める観点から、4/3(トランプ関税ショック)も含めた全サンプルで同様の回帰推定を実施する。
 4/3・7/31・10/10の各指数について、マーケットインパクトとサイクルクローズまでの営業日数を整理した結果を散布図化し、最小二乗法で近似直線を推定した結果が以下のグラフである。

 まず先ほどと同様に、近似直線に基づくサイクルクローズまでにかかる営業日数を点予測した。その結果は以下のとおりである。

 次に、推定の不確実性を考慮し、信頼水準80%を前提とした予測区間を設定した。その結果は以下のとおりである。

 上記の点予測および予測区間を散布図上にプロットし、回帰直線と合わせて可視化したものが以下のグラフである。

 以上の分析(点予測と信頼区間による線予測)から、NQに着目すると、追加の下落が発生せず、現状の下落幅のままサイクルクローズへ向かうケースにおいては、サイクルクローズまでに要する営業日は概ね5〜7営業日程度と見込まれる。
 言い換えると、現時点の下落は「短期のイベントショック」として市場に織り込まれつつあり、過去の関税ショック同様に、1〜2週間未満で価格が発表前水準を回復する確率が相応に高いことを示唆する。

 最後に但し書きとして、この推測における留意点を述べる。

 過去事例では、単に需給が自然回復してサイクルクローズしたというよりも、関税の影響を踏まえた米国政府側の追加対応がサイクルクローズの契機になった可能性がある。例えば、10/10の関税発表後に米中首脳会談の調整が進んだケース、4/3の発表後に90日間の猶予措置が示されたケースなど、政策・外交面での方針転換が市場心理を反転させたと解釈できる。従って、本件でも米国政府、特にトランプ大統領の次の発言・方針転換・交渉進展次第では、サイクルクローズが完了する営業日数が前後することを留意しておきたい。

 またこれまでの例との大きな相違点として、今回の関税発表は「貿易」論点に加えて、防衛・外交・領土といった地政学的論点を伴うため、織り込みスピード(サイクルクローズまでの日数)が前例より遅延するリスクがある。