原油高・中東情勢悪化は半導体株にどう波及するのか【前編】

KZ 著
令和8(2026)年4月17日

 イランを巡る中東情勢の悪化と、イランによるホルムズ海峡の閉鎖に端を発する原油高のニュースを、皆さんは耳にしていると思います。一般に、原油高は株式市場にとって逆風と捉えられやすいです。エネルギー価格の上昇は企業のコスト増加につながるだけで終わりません。インフレが再燃するのではないかという懸念を通じて金利の高止まり観測を強め、将来の利益に対する評価が切り下がりやすいため、株価、とりわけ高い成長期待が織り込まれている半導体株にはマイナスに作用しやすいです。さらに、ホルムズ海峡をめぐる緊張は、単なる原油価格の上昇にとどまらず、物流、供給網、石油化学原料の安定供給といった面でも不確実性を高めます。

 以上の理由から、半導体株は本来、今回の中東情勢に起因するショックと無縁ではないです。なぜなら、半導体は市場では成長株として扱われる一方、実体としては大規模な製造設備、電力、化学材料、国際物流に依存する産業だからです。したがって、原油高や中東供給不安ショックは、半導体セクターに対して、コスト面、金融面、需要面、供給網面の複数経路から下押し圧力を及ぼし得ると言えるでしょう。

 それにもかかわらず、実際の市場では、原油価格は継続して高いにも関わらず、NASDAQ100はショック局面でいったん売られた後、史上最高値を更新するほど上昇しています。特に、SOX(半導体)が上昇し、株式指数を押し上げており、足元の原油高や中東供給不安ショックを、そのまま持続的な半導体株の株価下押し要因としては扱っていないように見えます【図表1】。なのでこのレポートでは、「原油高・中東供給不安ショックが本来は半導体株の逆風となり得るにもかかわらず、なぜ市場はその影響を限定的なものとして扱っているように見えるのか」についてまとめます。

 まず前編では、原油高・中東供給不安ショックが半導体にどのような経路で波及し得るのかの詳細を整理します。半導体株のその後の戻りを評価する前に、そもそもなぜ、中東情勢の悪化がNASDAQ100、とりわけ半導体株を下落させるのかを確認しましょう。

【図表1】NASDAQ100・半導体・原油の推移

 原油高や中東情勢悪化が株式市場に与える影響を考える際、半導体セクターはしばしば「ハイテク」あるいは「成長(グロース)株」として捉えられやすいです。その一方で、産業としての半導体は、無形のデジタル産業というよりも、巨大な設備投資、エネルギー投入、化学材料、国際物流に支えられた高度な製造業でもあります。そのため、原油高やホルムズ海峡をめぐる供給不安は、半導体株に対しても複数の経路から下押し圧力を及ぼし得ると考えています。

 しかも、その影響は単に工場の光熱費や原料費が上がるだけに留まりません。原油価格の上昇は、電力やユーティリティコストの増加、石油化学由来材料の価格上昇、インフレ再燃懸念を通じた金利高止まり、さらには需要や供給網の不安定化など、多岐にわたって半導体企業に悪影響を及ぼしかねません。半導体株を考えるうえでは、こうした複数のチャネルを切り分けて把握する必要があります。

 半導体製造は、一般に想像される以上に電力を大量に消費する産業です。クリーンルームの恒常的な運転、露光やエッチングといった各工程、空調、純水処理など、生産のあらゆる局面で安定的かつ大量の電力供給が前提となっています。とりわけ大規模な製造拠点を持つファウンドリやメモリメーカーでは、ユーティリティコスト(光熱費などのインフラ利用料金)の変動は利益率に無視できない影響を及ぼしています。

 もちろん、原油価格の上昇がそのまま即座に電力料金へ転嫁されるわけではなく、各地域の電源構成、規制、料金制度、長期契約の有無によって、波及の速度や強さには差があります。しかしそれでも、原油高を含むエネルギー価格の上昇は、中期的にはユーティリティコスト全般を押し上げる方向に作用しやすく、半導体企業にとって、売上よりもまず利益率の面から圧力がかかる構造になっているといえるでしょう。

 代表例として、TSMCのような大規模製造能力を持つ企業は、設備拡張とともに電力使用量も大きく、エネルギー価格上昇局面では相対的に負担が重くなりやすいです。市場が半導体企業(多くは自社で工場を持たないファブレス企業)を成長株として評価していたとしても、その裏側を支える製造基盤はエネルギー価格の影響から自由ではない。したがって、原油高は半導体株に対して、まず製造コストの増加という素朴だが無視できない逆風を与えます。

 原油高の影響は、エネルギーコストだけにとどまりません。半導体製造には、フォトレジスト、溶剤、洗浄液、各種ガス、工程用化学品など、多数の素材や薬品が投入されています。これらの一部は石油化学製品を原料段階で用いており、原油やナフサ価格の変動から間接的な影響を受けます。

 この経路は前述した「電力・ユーティリティチャネル」ほど直接的ではないですが、製造現場では重要です。原油価格が上昇すれば、石油化学製品の原料コストや輸送コストが押し上げられ、それが半導体向け材料価格へ波及する可能性があります。とりわけ中東情勢悪化が、原油価格上昇だけでなく、供給不安や物流の不確実性と結びつく場合には、価格面だけでなく調達安定性の面でも懸念が強まりやすいです。

 半導体株を市場で評価する際、この材料面のリスクは見えにくいですが、実際には、半導体製造は極めて精密な材料調達の上に成り立っているので、石油化学由来原料の価格上昇や供給不安は、製造コストや稼働安定性にじわじわと影響してきます。原油高は「燃料高」としてだけでなく、「材料高」としても半導体セクターの逆風となり得るのです。

 もっとも、売り上げや利益率といった業績ではなく、株価への即時的な影響という観点では、原油高が半導体株に与える圧力は、現物コスト以上に金融面から表れやすいです。なぜなら、原油価格の上昇はインフレが再燃するのではないかという懸念を高め、市場における利下げ期待の後退や金利の高止まりにつながりやすいからです。そうなれば、将来利益に高い成長を織り込んでいる銘柄ほど、割引率上昇の影響を受けやすくなるでしょう。

 半導体株は実態としては製造業ですが、市場では高成長株として評価されることが多いです。SOX指数やNASDAQ100を押し上げてきた主要銘柄の多くも、目先の利益だけでなく、将来の成長期待を強く反映した価格形成がなされています。ですので、原油高がインフレ懸念を通じて金利高止まり観測を強める場合、半導体株には将来利益に対する評価の低下という形で逆風が及びやすいと言えるでしょう。

 この点は、今回のテーマにおいて特に重要です。というのも、SOXやNASDAQ100のような指数がショック局面で大きく下落する際、その背景には必ずしも企業の実際のコスト増がすぐに織り込まれているとは限らず、むしろ「金利が高止まりするなら高PERの(将来の成長を強く期待されている)成長株は買いにくいな」という市場の判断が先に動くことが多いからです。とりわけNVIDIAやBroadcomのような成長期待の大きい銘柄がNASDAQやSOXといった指数の構成比率の上位を占めていますので、原油高・中東供給不安ショックが半導体株に与える下押し圧力を考えるうえでは、金利・バリュエーションの経路が最も重要な論点の一つとなるでしょう。

 原油高は、需要面からも半導体セクターに影響を与えます。エネルギー価格の上昇は家計や企業の負担を増やし、実質的な購買力や投資余力を圧迫しますので、その結果、スマートフォン・PC・自動車・産業機器などの最終製品の需要が弱まり、その結果として半導体需要にも下押し圧力が及ぶ可能性があります。

 ただし、この需要面の影響は半導体全体に一様ではありません。民生向けや循環色の強い分野では、原油高や景気減速懸念の影響が比較的出やすい一方で、AIサーバーや一部データセンター関連のように、短期的には契約や投資計画の継続性が強い分野では、影響が直ちに顕在化しにくい可能性もあります。ですので、このチャネルは重要でありますが、本レポート前編ではあくまで「需要チャネルの影響は存在するものの、ほかのチャネルと比較すると影響は軽微である」という整理にとどめておきます。

 要するに、原油高は半導体セクターの需要面にも下押し圧力を与える可能性がありますが、その強さやタイミングはセグメントごとに異なります。したがって、「半導体需要が一律に悪化する」とみるのは粗く、どの需要が相対的に傷みやすいかを区別して考える必要があると考えています。

 中東情勢悪化やホルムズ海峡をめぐる緊張は、原油価格の上昇だけでなく、物流・供給網の面でも半導体に波及します。半導体産業は、原材料、前工程、後工程、組立、最終製品の各段階で国際分業に深く依存しています。たとえば、設計ではNVIDIAのようなファブレス企業(工場を持たない企業)、前工程の製造ではTSMCのようなファウンドリ(製造を専門とする企業)、後工程ではASEやAmkorのようなOSAT企業(組立・検査を専門とする企業)が重要な役割を担っており、材料面でもシリコンウェハやリソグラフィ材料を供給する多国籍の企業群が供給網を支えている。したがって、海上輸送の不安定化、保険料の上昇、輸送コストの上昇、納期の不確実性といった要素は、高付加価値産業であっても無関係ではないですし、むしろ強く影響を受けると言っても過言ではないです。

 とりわけ、ホルムズ海峡をめぐる供給不安は、単なる「石油が高い」という話ではなく、国際物流の摩擦が増す可能性を意味します。半導体そのものは軽量高付加価値であり、原油のように大量輸送を必要とするわけではないですが、製造に必要な材料や装置、さらには完成品を組み込んだ電子機器の国際移動まで含めれば、物流不安は決して無視できません。

 このチャネルは、株価に即時的に強く効くというよりは、供給網の摩擦や不確実性の上昇としてじわじわ効いてくる性格が強いでしょう。もっとも、市場が地政学ショックに反応する局面では、こうした物流不安もまた「半導体セクターに追加的な逆風がかかり得る」という認識につながりやすいです。

 以上で見てきたように、本レポート前半では、中東情勢の悪化による原油高や供給不安が、半導体株にどのような経路で波及し得るのかを整理しました。確認されたのは、半導体セクターが単なる「ハイテク」や「成長株」ではなく、エネルギー、化学材料、金融環境、需要、物流に同時にさらされる複合的な産業であるという点です。製造現場では、電力・ユーティリティコストや石油化学由来材料の価格上昇が利益率を圧迫しますし、市場面では、インフレ再燃懸念を通じた金利高止まり観測が、高PERな半導体株に逆風となりやすいです。さらに、需要や物流・供給網の面でも、時間差を伴いながら悪影響が波及する可能性があるでしょう。

 したがって、ショック局面においてSOXやNASDAQ100が大きく下落したこと自体には十分な合理性があり、少なくとも、原油高や中東情勢悪化が半導体株にとって無関係であったとは言い難いでしょう。

 その一方で、第1章でも確認した通り、市場はその後、こうした逆風を一部受け流す形で半導体株を買い戻していて、むしろ中東情勢の悪化前よりも株価が上昇しています。ですので、後編では、SOXやNASDAQ100の戻りの背景と、その持続性を左右する論点を検討しようと思います。