株式市場動向
5月14日の米国株式市場は、AI関連銘柄の力強い需要と米中首脳会談への期待を背景に主要3指数が揃って上昇し、記録的な高値を更新しました。ダウ工業株30種平均は2月11日以来となる50,000ドルの大台を回復し、50,063.46ドル(前日比+0.75%)で取引を終えました。S&P500種株価指数は初めて終値ベースで、7,500ポイントを突破して7,501.24(+0.77%)となり、ナスダック総合指数も26,635.22(+0.88%)と史上最高値を記録しています。消費者物価指数(CPI)が前年同月比+3.8%、生産者物価指数(PPI)が同+6.0%とインフレの高止まりを示したものの、AIブームと企業業績の強さが金利上昇の懸念を打ち消す形となりました。
新興国市場においても、MSCIエマージング・マーケット・インデックスが0.7%上昇し、5月に入ってからの上昇率を7%超に拡大させました。これはドナルド・トランプ米大統領と中国の習近平国家主席の会談による関係改善への期待から、TSMC、アリババグループ、サムスン電子などアジアのテクノロジー企業への買いが集中したことが主な要因です。一方で、AI関連の巨大IT企業への資金集中が極端に進んでいる影響で、アクティブファンドの運用成績は悪化しています。バークレイズのデータによれば、今年S&P500をアウトパフォームしているミューチュアルファンドの割合は2月末の60%超から28%へと急減しており、AIという特定のテーマに追随できない分散型ポートフォリオが市場平均に出遅れる構造的な課題が浮き彫りになっています。
為替・金利・コモディティ
【為替市場】
オフショア人民元は、米中首脳会談において習近平国家主席が米国企業向けに経済の対外開放を拡大する方針を示したことを受け、11営業日連続で上昇し、1ドル=6.7816元と2023年2月以来の最高値を記録しました。この連続上昇記録は2017年以来最長となります。英ポンドは、キア・スターマー首相のリーダーシップに対する不満からウェス・ストリーティング保健相が辞任し、マンチェスターのアンディ・バーナム市長が下院議員選挙への出馬を目指す動きを見せたことで、政局不安と財政規律の緩和リスクが意識され、対ドルで1カ月ぶりの安値となる1.3434ドルまで下落しました。日本円は、財務省による為替介入やレートチェックへの警戒感から一時1ドル=157.32円へと0.3%急騰しましたが、その後は158円付近へと押し戻される値動きを見せました。
【金利動向】
米国の10年国債利回りは、4月のPPIおよびCPIがエネルギー価格の高騰を背景に強い伸びを示したことで、10カ月ぶりの高水準となる4.51%に達しました。30年国債利回りも約20年ぶりに5%台に乗せています。投資家はインフレの高止まりとそれに伴うFRBの金融引き締め長期化を織り込む動きを強めています。英国の30年国債利回りは、労働党の地方選大敗を受けた政治的混乱を背景に、次期政権が財政ルールを緩めて借り入れを拡大するとの警戒感から1998年以来となる5.8%超へと急上昇し、債券市場におけるリスクプレミアムが著しく拡大しました。
【コモディティ市場】
原油市場では、米イスラエルとイランの戦争によってホルムズ海峡が実質的に封鎖され、世界の石油・LNG供給の5分の1が遮断された影響から、ブレント原油が1バレル104〜106ドル付近、WTI原油が102ドル付近と高値での推移を継続しています。ただし、ビトール・グループがアラブ首長国連邦(UAE)のフジャイラ沖でイラクのバスラ原油を洋上移し替え(STS)方式で提供し始めたことや、中国の巨大タンカー(VLCC)「Yuan Hua Hu」などが海峡を通過した事実が確認され、一部の供給がペルシャ湾から脱出している兆候も示されました。一方で米国の戦略石油備備蓄(SPR)から放出された原油のうち約40%に相当する1,300万バレルが欧州やアジアへ輸出されていることも判明し、世界的な供給逼迫の深刻さを裏付けています。また、ロシア産ウラル原油の税率計算用の平均価格は1バレル94.87ドルと2023年10月以来の高値となり、ロシア政府に多額のオイルマネーをもたらしています。農産物市場では、米国の主要産地であるカンザス州やオクラホマ州を襲った干旱や巨大な雹(ひょう)などの異常気象により、米農務省(USDA)が冬小麦の生産量を25%減少すると予測したため、小麦価格がストップ高となる急騰を記録しました。
マクロ環境・政策動向
【地政学リスク・外交】
北京で開催された米中首脳会談において、習近平国家主席はトランプ大統領に対し、台湾問題の対応を誤れば「衝突」を招き、米中関係を極めて危険な状況に追い込むと強い言葉で警告しました。一方で経済面では、中国がボーイング製航空機200機を購入する大型契約に合意したとトランプ大統領が明らかにしました。また、米国の対米外国投資委員会(CFIUS)の審査を回避しつつ非機密分野への中国投資を認める「投資委員会(Board of Investment)」の設立や、約300億ドル規模の貿易に対する関税撤廃に向けた「貿易委員会(Board of Trade)」の交渉が進行中であることが、スコット・ベッセント財務長官によって明かされました。中東情勢では、オマーン湾でインド船籍の帆船「ハジ・アリ」が攻撃を受けて沈没し、インド政府がこれを「容認できない」と強く非難しています。さらに、米国防総省はドイツなどNATO同盟国との関係悪化や欧州における米軍駐留の見直しの一環として、米陸軍約4,000人のポーランドへの派遣計画を中止しました。
【金融政策】
米国では、上院がケビン・ウォルシュ氏を次期FRB議長として承認しました。これに合わせ、ハト派として知られるスティーブン・ミラン理事が辞表を提出し、FRBのインフレ測定手法が誤っており、不要な失業を生み出していると強く批判しました。ボストン連銀のスーザン・コリンズ総裁は、インフレ率が5年間目標を上回っている現状では、供給ショックを看過することはもはやできないと述べています。欧州では、イングランド銀行(BOE)のヒュー・ピル主席エコノミストが、中東戦争によるエネルギーショックのインフレ波及を防ぐため、迅速かつ小幅な利上げが必要であると主張しました。欧州中央銀行(ECB)のヤニス・ストゥルナラス理事(ギリシャ中銀総裁)も、原油価格の高止まりが続けばECBは利上げ以外の選択肢を失うことになると警告を発しました。
【制度・政策】
米上院銀行委員会は、暗号資産の市場構造を規定する「Clarity Act(透明性法案)」を15対9の賛成多数で可決しました。同法案は商品先物取引委員会(CFTC)を仮想通貨の主要な規制当局と位置づけ、ステーブルコインの報酬付与に関する妥協案が盛り込まれました。米カリフォルニア州では、ギャビン・ニューサム知事が予算の赤字を回避するため、クラウドベースのソフトウェア販売に対して7.25%の売上税を新たに導入し、年間数十億ドルの税収を確保する計画を発表しました。ニューヨーク州議会では、ニューヨーク市の財政赤字を補填するため、100万ドル以上の住宅の全額現金購入に対して新たな税を課し、1億6,000万ドルを調達する法案が議論されています。キューバでは、米国によるエネルギー封鎖の影響でディーゼル油と重油の備蓄が完全に底をつき、国中の電力網が機能不全に陥ったことで、首都ハバナ周辺で市民による抗議デモが発生しました。
個別銘柄動向
【テクノロジー・半導体】
・Cerebras Systems (CBRS):AI推論チップを手掛ける同社は、IPO価格を当初の予想を上回る185ドルに引き上げて55億5,000万ドルを調達した後、ナスダックでの取引初日に350ドル(+89.2%)で寄り付き、一時370ドルまで上昇しました。時価総額は約800億ドルに達し、今年の最大規模かつ米国半導体史上最大のIPOとなりました。
・Cisco Systems (CSCO):AIインフラ投資へのシフトを目的とした約4,000人(全従業員の5%未満)のレイオフと事業再編を発表したほか、ハイパースケーラーからの受注急増により通期売上高見通しを167億~169億ドルへ引き上げたことで、株価は15%超急騰し117.11ドルを付けました。
・Nvidia (NVDA):ジェンスン・フアンCEOがトランプ大統領の訪中団に土壇場で加わる中、米商務省がアリババやテンセントなど中国企業約10社に対し、同社の「H200」チップの購入を承認したとの報道を受け、株価は4.39%上昇して235.74ドルとなり、時価総額は史上初の5兆7,000億ドルに達しました。
・Apple (AAPL):OpenAIのChatGPTをiOSに統合する提携を巡り、期待されたサブスクリプション収益やSiri内でのプロモーション効果が得られていないとして、OpenAI側が契約違反を主張する法的手続きの準備を進めていることが明らかになりました。
・Applied Materials (AMAT):第3四半期の売上高をアナリスト予想(81億5,000万ドル)を大きく上回る約89億5,000万ドル、EPSを3.36ドルと予想したことで、時間外取引で株価が約5%上昇しました。AIコンピューティングやメモリチップの需要急増が寄与しています。
【一般消費財・自動車】
・Honda Motor (HMC):上場企業としての70年の歴史で初となる通期純損失(約27億ドル/4,143億円の営業赤字)を計上しました。これは米国の税額控除廃止や関税などの政策変更を受け、EV戦略を見直し、100億ドル規模のEV関連損失を計上したためです。ただし、ハイブリッド車への注力や強気な次期ガイダンスが評価され、米国預託証券(ADR)はプレマーケットで3%超上昇しました。
・Amazon (AMZN):クラウド部門(AWS)が過去3年で最速の四半期売上成長を記録し、自社製AIチップ「Trainium」で2,250億ドルを超える収益コミットメントを獲得したことで、株価が急伸し時価総額が3兆ドルの大台に迫っています。
【その他・金融】
・DraftKings (DKNG):BNPパリバから、ウォール街で唯一となる「売り(Sell)」相当の投資判断と、水曜日の終値から20%の下落を示唆する目標株価20ドルが提示されました。「Kalshi」や「Polymarket」といった急速に拡大する予測市場(Prediction Market)が、同社の成長や利益率の拡大を著しく脅かすとの分析が理由です。
・Tate & Lyle:米国の食材メーカーであるIngredionから、1株当たり615ペンス(現金595ペンス+配当20ペンス)、総額最大27億4,000万ポンド(約37億ドル)での買収提案を受けました。これを受け、ロンドン市場での株価は日中として過去最大となる最大55%の急騰を記録しました。
・Doximity (DOCS):AIへの投資が利益を圧迫し、通期の業績見通しが市場予想を下回ったことを受けて、プレマーケットで株価が23%急落しました。これを受けて少なくとも4社のブローカーが投資判断を引き下げました。