株式市場動向
米国の主要株価指数は軒並み下落し、S&P500種株価指数は前日比1.24%安の7408.50、ダウ工業株30種平均は1.07%安の49526.17、ナスダック総合指数は1.54%安の26225.14で取引を終えました。この下落は、イランでの戦争を背景としたエネルギー価格の高騰と、それに伴うインフレ再燃の懸念から世界的な国債の売り浴びせが発生し、米10年債利回りが4.5%を突破したことが直接的な要因とみられています。これにより、これまで市場を牽引してきたAI関連のハイテク株を中心に利益確定売りが膨らみ、記録的な株高ラリーに冷や水が浴びせられる結果となりました。市場の内部構造においても、S&P500種構成銘柄のうち50日および200日移動平均線を上回って推移している銘柄が60%未満にとどまっており、一部の巨大企業のみが相場を牽引している事実が浮き彫りになっています。これはドットコム・バブル末期の1998年12月から2000年3月にかけて見られた極端な一部銘柄への集中と類似しており、相場の脆弱性が歴史的データとして示されています。
アジアおよび欧州市場でも売りが波及し、韓国のKOSPI指数は6.1%下落、日本の日経平均株価は1.8%下落、香港のハンセン指数は1.4%下落しました。中国のCSI300指数も今週0.3%下落し、新興テクノロジー企業向け市場は2.7%の下落を記録しています。これは、米中首脳会談において半導体輸出規制の解除など市場が期待した具体的なテクノロジー関連の合意が得られなかったことで、投資家が事実売りに動いたことが原因です。欧州では、Stoxx600指数が1.3%下落したほか、ドイツのDAX指数や英国のFTSE100指数も下落し、世界的なリスクオフの連鎖が確認されています。
為替・金利・コモディティ
【為替市場】
米ドル指数は一時99へと上昇し、1ヶ月ぶりの高値を記録しました。これは米国のインフレ指標の上振れを受けた国債利回りの上昇により、投資家がドル買いに動いたためです。一方、英ポンドは対ドルで急落し、2024年以来の週間下落率を記録しました。これは英国のキア・スターマー首相に対する退陣要求が強まり、労働党左派のアンディ・バーナム・マンチェスター市長が国政復帰に向けて動き出したことで、次期政権下での財政規律の緩和リスクが意識されたことが背景にあります。中国人民元は、米中首脳会談が決定的な対立を回避し「建設的で戦略的な安定」という枠組みで合意したことを受け、オンショアおよびオフショア市場ともに安定した値動きを示しました。
【金利動向】
米国の国債市場では売りが加速し、10年国債利回りは4.596%に達し、30年国債利回りは2007年7月以来の高水準となる5.127%へと急上昇しました。政策金利に敏感な2年国債利回りも4.075%を記録しています。これは、4月の米卸売物価指数(PPI)および消費者物価指数(CPI)が市場予想を上回る伸びを示したことで、ホルムズ海峡封鎖に伴うエネルギー供給ショックが実体経済のインフレ圧力として顕在化していることが確認されたためです。英国では、30年物ギルト(国債)利回りが1998年以来の高水準となる5.8%を突破し、10年物ギルト利回りも2008年以来となる5.17%へと18ベーシスポイント急上昇しました。英国債の売りは、次期首相候補による左派的な財政拡張への警戒感が直接の引き金となっています。日本でも30年国債利回りが初めて4%に達し、世界的な借入コストの上昇が連鎖している状態です。
【コモディティ市場】
原油市場では、国際指標であるブレント原油先物が3%以上上昇して1バレル109ドルを突破(108.71ドルで推移)し、米WTI原油先物も105ドルを超えました。この価格高騰は、米中首脳会談においてイランへの圧力行使を通じたホルムズ海峡の再開に向けた具体的な進展が全く見られず、米中央軍がイランの港湾封鎖により商業船75隻の航路変更を余儀なくされたと発表したことで、供給網の寸断が長期化する事実が裏付けられたためです。一方、貴金属市場では金先物が2.7%安の1オンス4,555ドル、銀先物が8%安の78ドルへと急落し、銅も5%下落しました。インフレ懸念を背景とした米国債利回りとドルの上昇が、利息を生まない安全資産である貴金属からの資金流出を招いた結果です。ただし、銅は週半ばに中国の需要回復期待とヘッジファンドの買い越し(73,523契約への増加)により1ポンド6.7160ドルの史上最高値を記録した後の下落となっています。
マクロ環境・政策動向
【地政学リスク・外交】
ドナルド・トランプ米大統領と中国の習近平国家主席による北京での首脳会談が閉幕し、両国は「建設的で戦略的な安定(constructive strategic stability)」という新たな関係枠組みで合意しました。この合意は、イランでの戦争によるインフレ再燃に直面する米国と、輸出依存の経済成長を維持したい中国の双方が、互いに対するこれ以上の経済的デカップリングや追加関税の応酬を回避する必要に迫られた結果として導き出されました。会談において、中国側はボーイング製航空機200機およびゼネラル・エレクトリック製エンジン400〜450基の購入に合意したほか、約300億ドル規模の非重要物資に対する関税引き下げを管理する「貿易委員会(Board of Trade)」の設立でも一致しました。また、トランプ大統領はイラン産原油を購入する中国の石油会社への制裁解除を数日内に決定すると表明し、中国側への譲歩を示しています。一方、アラブ首長国連邦(UAE)とインドは、ホルムズ海峡の封鎖リスクに対抗するため、戦略的石油・ガス備蓄を拡大する合意を発表しました。アブダビ国営石油会社(ADNOC)はインド国内における原油貯蔵量を3000万バレルへと大幅に引き上げる計画であり、中東の供給不安に対する防衛策が国家間で具体化しています。ドイツのメルツ首相は、自国のカトリック教徒の集会において、米国の現在の社会情勢を理由に子供たちに米国での労働や研修を勧めないと発言し、米国との間に横たわる外交的緊張を露わにしました。
【金融政策】
米連邦準備制度理事会(FRB)の次期議長として承認されたケビン・ウォーシュ氏は、就任を前に、インフレ期待の再燃と国債利回りの急騰という課題に直面しています。ホルムズ海峡の事実上の閉鎖に伴うエネルギー価格の上昇が物価全体に波及しており、CMEのFedWatchツールでは12月までの利上げ確率が50%近くまで上昇していることから、金融緩和を志向する新体制の意図とは裏腹に、引き締め方向への政策転換を市場が織り込み始めていることが示されています。欧州中央銀行(ECB)のボリス・ブイチッチ政策委員は、6月の利上げ判断について「会合までに得られるデータ次第である」と公式に発言しました。イラン戦争の影響が欧州圏の物価に与える影響を見極めるため、慎重な姿勢を維持しています。コロンビア中央銀行のビビアナ・タボアダ共同理事は、4月の金利据え置き決定について、大統領選挙を控えた政治的干渉を避けるための透明性確保が目的であったと説明しました。同時に、政府の記録的な最低賃金引き上げ(23%)と財政赤字が生産能力を超えた需要を生み出し、インフレ圧力を加えている事実を指摘しています。
【制度・政策】
米食品医薬品局(FDA)は、マーティ・マカリー前長官の辞任に伴い、医薬品評価研究センターのトレイシー・ベス・ホエグ長官代行を含む側近幹部を解任する大規模な人事刷新を断行しました。これはトランプ政権が保健当局の内部体制を安定化させ、過去13ヶ月間に生じた内部対立を払拭するための組織再編の動きです。米国内務省は、アラスカの国家石油備蓄(NPR-A)内における石油開発の許認可プロセスを簡素化し、最短30日で承認を可能にする新たな枠組みを発表しました。イランでの戦争による供給不足を補うため、米国内の原油生産を加速させる政府の明確な方針転換を示しています。米メディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)は、肥満治療薬(GLP-1受容体作動薬)を月額50ドルの自己負担で提供するパイロットプログラム「メディケアGLP-1ブリッジ・プログラム」の導入を発表しました。従来は減量のみを目的とした処方は対象外でしたが、高齢者のアクセスを拡大する一方で、2026年から2034年までに推定350億ドルのコストが連邦政府の財政負担となる事実が浮上しています。ロシア連邦統計局が発表した第1四半期の国内総生産(GDP)は前年同期比0.2%減となり、2023年初頭以来のマイナス成長を記録しました。これはウクライナでの戦争遂行に伴う記録的な高金利(21%)と、年初の異常気象が建設業を直撃したことが原因であり、戦時経済がリセッションに向かっている実態が示されています。
個別銘柄動向
【テクノロジー・半導体】
・Nvidia (NVDA):株価は4.42%下落しました。米国政府が中国企業10社に対する最新AI半導体「H200」の購入を許可したものの、中国政府が国内企業に自国産チップ(Huawei等)の購入を推奨し、承認を下していない事実がトランプ大統領の口から明らかになったためです。
・Microsoft (MSFT):株価は1.04%上昇しました。著名投資家ビル・アックマン氏率いるパーシング・スクエアが新規に株式を取得し、同社が保有するOpenAIの株式27%(約2000億ドル相当)の価値が現在の株価倍率に反映されていないと公表したことが材料視されました。
・Cerebras (CBRS):IPO初日の取引で公開価格185ドルから350ドルで寄り付き、終値311ドル(68%高)へと急騰し、時価総額は約670億ドルに達しました。Nvidiaの牙城を崩すAIチップの代替企業として市場の強い資金流入を集めた結果です。
・Applied Materials (AMAT):株価は1%下落しました。第3四半期の売上高および調整後利益の見通しがウォール街の予想を上回ったと発表したものの、半導体セクター全体の広範な利益確定売りの波に押された形です。
・Figma (FIG):株価は10%急伸しました。第1四半期の決算が予想を上回り、2026年通期の売上高見通しを14億2000万ドル〜14億3000万ドルへと引き上げた事実が、AIによるSaaS企業の代替リスク(SaaSpocalypse)に対する懸念を払拭したためです。
・SpaceX (SPCX):非公開で進められているIPO計画において、早ければ6月12日にナスダック市場(ティッカー:SPCX)へ上場する方針を固め、1.75兆ドルから2兆ドルの評価額で最大750億ドルの資金調達を目指す手続きを加速させていることが判明しました。
【資本財・自動車】
・Boeing (BA):株価は3.80%下落しました。トランプ大統領が中国から200機の航空機受注を獲得したと発表しましたが、市場が事前に期待していた500機(737 Maxおよびワイドボディ機)の受注規模に遠く及ばなかったことが失望売りを招きました。
・Ford Motor (F):株価は7.5%急落し、2025年2月以来の最大の下落率を記録しました。AIデータセンター向けエネルギー需要の恩恵を受けるとの期待から直近2日間で21%上昇していましたが、広範なリスクオフ相場の中で急速に投資家の熱狂が冷え込んだ結果です。
【ヘルスケア・消費財】
・UnitedHealth Group (UNH):株価は時間外で約2.5%下落しました。内部文書の公開により、同社がChatGPTやCopilotを利用した業務効率化を従業員に追跡・強制し、今年15億ドルのAI投資を通じて年間1億5000万行以上のコード生成や1500万件の電話対応削減を実現している事実が判明しました。
・Starbucks (SBUX):米国のコーポレート部門で300人の人員削減を行い、アトランタ、シカゴ、ダラス、カリフォルニア州バーバンクの4つの地域オフィスを閉鎖すると発表しました。ブライアン・ニコルCEOによる収益性改善に向けた再建策の一環であり、これに伴い4億ドルの関連費用を計上するとしています。
・Delivery Hero (DHER):株価は40%急騰し、2017年の上場以来最高の週間上昇率を記録しました。ニクラス・オストバーグCEOの退任発表に加え、筆頭株主のProsusがアクティビストファンドのAspex Managementに株式の5%を売却し、韓国事業の売却プロセスが開始されたとの報道が事業解体への期待を高めたためです。
・Dexcom (DXCM):株価は2%から3%上昇しました。アクティビスト投資家エリオット・インベストメント・マネジメントとの間で、2名の独立取締役を委員会に迎える和解に合意し、さらに投資家向け説明会で強力な長期成長見通しを提示したことが好感されました。