株式市場動向
米国の株式市場は、主要3指数がそろって最高値を更新しました。S&P 500種株価指数は0.6%高、ナスダック総合指数は0.9%高、ダウ工業株30種平均は横ばい圏ながら過去最高値で引けました。序盤は米国によるイラン軍事施設への攻撃というニュースを受けて下落して始まりましたが、その後、米国とイランが60日間の停戦延長とホルムズ海峡の再開を含む暫定合意に達した(トランプ大統領の承認待ち)との報道が伝わり、安堵感から買い戻しが優勢となりました。 マクロ要因としては、米国の4月個人消費支出(PCE)価格指数が前年同月比3.8%上昇と、2023年5月以来の高い伸びを記録したことが市場の重荷となりました。イランとの紛争によるエネルギー価格の高騰が直接的な原因であり、FRBが利下げに踏み切れないとの観測が強まりました。しかし同時に発表された第1四半期の実質国内総生産(GDP)改定値が年率1.6%増に下方修正され、インフレと低成長が混在する状況が確認されたことで、極端な金利上昇への警戒感も一部和らぎました。 セクター別では、ソフトウェアやデータセンター関連のテクノロジー銘柄が市場を牽引しました。特にスノーフレイクやデル・テクノロジーズの好決算がAIインフラ投資の持続性を示し、関連銘柄が急騰しました。一方で、セールスフォースのようにAIによる既存ビジネスの破壊(SaaSアポカリプス)への懸念から売られる銘柄もあり、テクノロジー分野内でも選別物色が強まっています。また、トランプ政権が国内ドローン企業への資金提供を検討しているとの報道を受け、防衛・航空宇宙セクターの小型ドローン関連銘柄が急騰しました。
日本の株式市場では、日経平均株価が前日比306円29銭安の64,693円12銭で取引を終え、反落しました。朝方はイラン国営メディアによるホルムズ海峡の通航正常化に関する報道を受けて反発する場面がありましたが、その後、米軍のイラン攻撃やイラン革命防衛隊による報復表明などが相次いで報じられ、地政学リスクの再燃から下落幅を一時1,000円超に広げました。TOPIXは0.5%安となり3日続落しました。一方で、東証グロース市場250指数は0.6%上昇し、3日ぶりの反発となりました。投資主体別売買動向では、海外投資家が8週連続で日本株を買い越し、買い越し額は4,690億円に達しました。
為替・金利・コモディティ
【為替市場】
ブルームバーグ・ドル・スポット指数は、ニューヨーク時間午前11時の時点で0.2%下落し、主要通貨すべてに対してドル安が進行しました。米国とイランがホルムズ海峡の通航再開や核開発協議を含む60日間の停戦延長で暫定合意に達したとの報道が伝わり、地政学リスクの後退から安全資産としてのドル買いが巻き戻されたことが主な要因です。ユーロは対ドルで1.1650ドルを上回る水準まで上昇し、G10通貨の中ではリスク感応度の高いスウェーデン・クローナとニュージーランド・ドルが上昇を主導しました。
【金利動向】
米10年国債利回りは、早朝に原油高を背景に4.53%まで上昇したものの、停戦合意報道とPCE価格指数の発表を受けて低下し、最終的に前日比ほぼ横ばいの4.454%付近で推移しました。2年国債利回りは4.04%となりました。インフレの高止まりとデュレーション・リスク(金利変動に対する価格感応度)への警戒から、投資家の資金は超短期債ファンドに殺到しており、ブラックロックの0-3ヶ月米国財務省証券ETFには今年に入り222億ドルが流入しています。一方、フレディマックが発表した米国の30年固定住宅ローン平均金利は、前週の6.51%から6.53%へ小幅に上昇しました。
【コモディティ市場】
原油市場では、ブレント原油先物が米軍によるイラン攻撃の報道を受けて一時4%高の1バレル98.20ドルまで急騰しましたが、その後の停戦延長合意の報道を受けて上げ幅を縮小し、93ドル近辺での推移となりました。WTI原油先物も90ドルを割り込みました。ホルムズ海峡の封鎖により世界的な供給懸念が続いていましたが、イランが30日以内に機雷を撤去するとの合意案が好感されました。金スポット価格は、地政学リスクの緩和期待から安全資産の需要が後退したものの、ドル安と利回り低下に支えられ、ニューヨーク時間午前10時26分時点で0.2%高の1オンス4,462.98ドルへと損失を埋めました。黒海沿岸では、ロシアのシャドーフリート(影の船団)と見られる原油タンカー「Altura」「Velora」「James II」の3隻が、トルコ沖で洋上荷役中にドローン攻撃を受けました。
マクロ環境・政策動向
【地政学リスク・外交】
米国とイランは、パキスタンやカタールを仲介とした交渉の末、60日間の停戦延長とホルムズ海峡の無制限通航を含む暫定合意に達しました。イランは30日以内に海峡の機雷を撤去する条件が含まれていますが、トランプ大統領の最終承認待ちとなっています。この合意報道に先立ち、米軍はホルムズ海峡周辺で商業船を狙ったイランのドローン4機を撃墜し、軍事施設を攻撃していました。欧州では、スウェーデンのウルフ・クリステション首相が、ウクライナに対して最新型の「サーブ・グリペンE」戦闘機20機の売却と、旧型の「C/D」バージョン16機の寄付を発表しました。ロシアのプーチン大統領はカザフスタンを訪問し、164億ドル規模の同国初となる原子力発電所建設(ロシア国営ロスアトムが担当)の資金提供合意や、ルーブルとテンゲの通貨スワップ協定に署名しました。
【金融政策】
米国の4月PCE価格指数が前年同月比3.8%上昇したことを受け、FRB当局者からインフレ警戒の発言が相次ぎました。リサ・クック理事やクリストファー・ウォーラー理事がインフレの持続性を懸念し利上げの可能性を排除しない姿勢を示したほか、フィリップ・ジェファーソン副議長やニール・カシュカリ総裁も物価上昇への警戒を強めています。新たに就任したケビン・ウォルシュFRB議長にとっては、トランプ大統領からの利下げ圧力と、当局者内の利上げバイアスの間で難しい舵取りを迫られています。欧州中央銀行(ECB)が公表した4月の議事要旨では、エネルギー価格のショックが持続的になっていることから、複数の政策委員が「4月会合での利上げ提案があっても反対しなかった」と述べていたことが判明し、6月の利上げが確実視されています。南アフリカ準備銀行(SARB)は、イラン紛争によるエネルギーと肥料価格の高騰(4月の生産者物価指数が前月比で過去最高の3%上昇)を受け、政策金利を25ベーシスポイント引き上げ7.0%としました。
【制度・政策】
米司法省、FBI、商品先物取引委員会(CFTC)は、予測市場「Polymarket」でインサイダー取引を行い120万ドルの利益を得たとして、GoogleのソフトウェアエンジニアであるMichele Spagnuoloを詐欺およびマネーロンダリングの罪で起訴しました。検索トレンドの非公開データを利用した疑いが持たれており、予測市場における規制の空白地帯が浮き彫りになりました。欧州連合(EU)は、自域内の半導体産業を復興させるため、2035年までに1,200億ユーロの官民投資を見込む「Chips Act 2.0」の草案を準備しており、欧州委員会による300億ユーロ規模の3nmおよびAIチップファウンドリ建設が含まれています。また、EUの執行機関は、中国系Eコマース「Temu」に対し、危険な玩具や基準を満たさない充電器の販売を放置したとしてデジタルサービス法(DSA)違反で2億ユーロの罰金を科しました。さらに、ドイツのフリードリヒ・メルツ政権が承認した、米国のストリーミング企業に国内売上の8%をドイツ映画界へ投資させる法案について、米国のジェイミソン・グリア通商代表は「保護主義的」であり、EUとの「ターンベリー協定」に違反していると強く非難しました。
米国個別銘柄動向
【テクノロジー・ソフトウェア】
・Snowflake (SNOW):第1四半期の製品収益が前年同期比33%増の13億9000万ドルとなり、通期見通しを上方修正したことで株価は36%急騰し、上場来最大の単日上昇率を記録しました。Amazon Web Services (AMZN)との60億ドル規模の5年契約を発表したことも好感されました。
・Salesforce (CRM):第1四半期決算で270億ドルという巨額の自社株買いを実施したものの、第2四半期の売上高見通し(113億ドル)がアナリスト予想を下回ったため、AIによる既存ソフトウェアビジネスへの破壊的影響が懸念され、株価は下落しました。
・Autodesk (ADSK):メンテナンス管理ツールを手掛けるMaintainXを36億ドルの現金で買収することで合意しました。設計分野から設備運用管理へと事業領域を拡大する狙いがあります。
・Anthropic (未上場):最新の資金調達ラウンド(シリーズH)で650億ドルを調達し、評価額が9650億ドルに達したと発表しました。これにより、ライバルであるOpenAIの評価額(8520億ドル)を初めて上回りました。また、コーディング能力を向上させた新たな旗艦AIモデル「Claude Opus 4.8」をリリースしました。
・Meta Platforms (META):AIチャットボットの消費者向けサブスクリプションを初めて導入しました。月額7.99ドルの「Meta One Plus」と月額19.99ドルの「Meta One Premium」を提供し、数千億ドル規模のAIインフラ投資の回収を図ります。
【ハードウェア・半導体】
・Dell Technologies (DELL):2027年1月期の通期売上高見通しを1670億ドル(うちAIサーバーが600億ドル)へ大幅に引き上げたことで、株価は時間外取引で最大17%急騰しました。米軍のMicrosoft製ソフトウェアライセンス管理を支援する97億ドルの契約も獲得しています。
・IREN Ltd (IREN):Microsoft (MSFT)に対してテキサス州のデータセンターでAI計算能力を提供するため、Nvidia製GPUの購入資金として36億ドル(社債21億ドル、プロジェクトファイナンス15億ドル)を調達しました。
【小売・消費財】
・Best Buy (BBY):第1四半期の既存店売上高が予想(0.9%増)を上回る2%増となったことで株価は8%上昇しました。また、Corie Barry CEOが第3四半期末で退任することが発表されました。
・Tyson Foods (TSN):Donnie King CEOの後任として、P&G出身のJeff Schomburgerを10月4日付で新CEOに任命したと発表しました。内部昇格ではなかったことが市場から驚かれ、株価は5%近く下落しました。
【エンターテインメント・カジノ】
・Caesars Entertainment (CZR):ホスピタリティ複合企業のFertitta Entertainmentによって、57億ドルの現金(1株あたり31ドル)で買収されることに合意しました。119億ドルの負債を含めると取引総額は176億ドルに達します。
【運輸・モビリティ】
・Union Pacific (UNP) & Norfolk Southern (NSC):720億ドル規模の合併計画について、米陸上交通委員会(STB)が競争や公共の利益に関する追加情報の提出を求め、審査を一時停止したため、両社の株価はそれぞれ5.2%、6.5%急落しました。
・Verra Mobility (VRRM):レンタカー大手Avis Budget Group (CAR)が、自社開発への切り替えを理由に年間売上の10%以上を占める契約の更新を拒否したため、株価が71%暴落し、2029年満期の社債も額面1ドルあたり85セントまで急落しました。
【防衛・航空宇宙】
・Unusual Machines (UMAC), Red Cat (RCAT), AeroVironment (AVAV):トランプ政権がドローンの国内生産拡大とコスト削減を目指し、ドローン企業群との資金提供契約を模索しているとの報道を受け、UMACが50%、RCATが25%、AVAVが15%と、関連銘柄が軒並み急騰しました。